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科学と技術について日ごろ考えることの私のためのメモ


by itot7227ex

量子もつれと暗号通信

量子もつれと暗号通信_d0030187_13153112.jpgまず量子もつれについて、ファインマンの「物理学」にあるポジトロニウムを使った説明を引用しよう。
ポジトロニウムは、水素原子の陽子の代わりに陽電子を持った粒子であるが、陽電子とは違って、永久に存在することはできない。陽電子は電子の反粒子であるので、それらは結合して完全に消滅することが可能なのである。すなわち、2個の粒子は完全に消滅してしまって、その後に図のように静止質量がゼロの2個の光子を残すことになる。
 ここでは、基底状態にあって、スピンゼロにあるポシトロニウムを取り上げれば、これは、0.1ナノ秒の寿命で2個の光子(γ線)になる。この2個の光子は、その後いくら遠方に離れて行っても、それぞれ互いに次のような量子もつれという相関関係を持つことになる。
 いま、量子もつれを具体的に考えるために、机上の議論として人工衛星にあるポジトロニームから出た光子の一方が地球に送られ、一方が火星に送られたとする。そしてこれを受け取る地球の人も、火星の人も、x方向及びy方向に光子を分離するビームスプリッターを1個セットして、それを通って分離した二つのビームの通路にそれぞれ1個の光子計数素子を置いたとする。すると、地球の人が50%の確率で全くランダムにx方向の素子に光を受けたとすると、この人は火星の人がy方向の素子に光が入ったことを確実に言い当てることができるのである。xとyあるいは地球と火星を入れ替えても同じことである。
 その後、地球の人と火星の人が通常の通信回線でx、yどちらの偏りの光子を受け取ったのかを照合し、 ビット列が光子ごとに反対の偏りの光子であれば、ここで二人が受け取ったランダムなビット列は、二人だけの暗号の鍵として利用できる。これが量子もつれを利用した暗号通信である。
 このような量子もつれを、上述のようにポジトロニウムから作り出すことはあまりにも大掛かりな装置を要するので実用にはならない。しかし近年、量子もつれを作り出すのに、レーザ光を非線形結晶に導くと出てくる光の「下方変換」を使う方法が考案されている。これは、従来から使われ、すでに工業化されている倍調波の光子を得る「上方変換」とは逆に、一個の光子から量子もつれにある2個の低エネルギーの光子を得る方法である。  
周知のように一個の光子を使った量子暗号通信は、すでに実用化されているが、伝達距離に制限があるという問題があるようだ。これに対して、量子もつれにある2個の光子を利用した暗号通信は、はるかに長距離の暗号通信を実現できることがすでに実験的に検証されたと聞いている。もし、アインシュタインが生存していて、この報に接すればなんというだろうか。

情報技術で漢詩を読むの監修者の記)
by itot7227ex | 2005-04-22 13:14 | 量子力学